取調室にて

何となくテレビを見ていたら、WBCで日本が韓国に勝ったらしい。
僕は野球がそれほど好きではないのでWBCにも興味がなかったのだが、韓国戦に2敗した時のイチローの憤慨ぶりが格好良くて火がついていた。
韓国に勝った一報をニュースで見た時は思わず大きな声を出したほどだ。
それから忙しくてニュースを見ていないけど、日本代表はどうなったんだろう?
それとも、ニュースは僕の話題で持ち切りだろうか?
僕は今、取調室にいて担当の警察官と向かい合っている。
彼は僕をどう扱っていいのかわからないようすで、黙って僕を観察している。
僕も彼と話す積極的な必要性が見つからないので黙っている。
もちろん、こんなところに連れてこられて気分が悪かったので声を出すのも面倒だ。
「積極的な必要性」という言葉について考えてみる。徐々に僕はムカついてくる。
目の前にいる男を殴り倒す事を想像する。警察官は大概が横柄な奴らだ。慇懃無礼で横柄だ。
この男も例外ではない。優しい口調で話しているつもりだろうが、人を見下した目をしている。
何故、僕がこんなところに連れてこられたのか思い出そうとする。
僕は混乱している。「僕の平穏な一日」が壊れたからだ。
彼女は僕に自分自身を食べてほしいと言った。
彼女は僕の事を好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでしようがないから、あなたに食べられたい、といった。
自分の存在をあなたの中に置きたい、と。
その言葉はいまいち説得力に欠けていたけれど、彼女は真剣だった。
僕も彼女の事を好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでしようがなかったので、彼女を食べることにした。
僕はスプーンで彼女の肉を削ぎ取って食べた。眼球は飲み込んで、骨と内蔵と血をミキサーにかけてスープにして食べた。
食べ終わる頃には、一日が過ぎていた。テレビでは日本代表が韓国に勝っていた。
そして、警官がやってきた。
僕は気づかなかったけど、血の生臭い匂いが部屋から漏れていたらしい。
警察官がタバコを取り出して吸っても構わないか、と言う。
僕は一本くれませんか?と手を差し出す。
警官からタバコをもらい、火をつけてもらう。
煙を一気に吸い込んで、肺にためる。
僕は君の事を好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでしようがなかったけど、一つになれるなんて幻想だ。
僕は一人になってしまった。
煙を吐き出して、僕は自分に鍵をかける。
感覚は遠のいていき、僕は深い眠りにつく。