Weightless

時速800キロ。
テロリストに爆破された飛行機は螺旋状に落ちていく。

窓から見える世界はくるくると回転する。日の出の赤い空が見え隠れする。
一瞬、シュールな光景に我を忘れる。夢みたいだ。
夢だったら良いのに。
目を閉じる。脂汗をかきながらベッドで目を覚ますことを想像する。
目を開ける。世界はまだ回転している。
無重力を感じる。

機内の電源が落ちる。
薄暗い中で、僕は宇宙を想像する。
そこは、だだっ広くて、冷たくて、音がなくて息が出来ない。
僕は、喉が裂けるくらいに大声で叫ぶ。
僕の声は騒音と乗客の叫び声にかき消される。
パニック。
いけない。別れた女の顔を思い浮かべた。いや、母親かな?
地面まで、残り3分。

確かに僕にはいるべき場所があった。
僕には選択できるあらゆる可能性があった。
僕は確かにそこにいた。君みたいに光っていた。
無重力を感じる。
僕はずっと一人だった。君はどこにいるんだろう?

目を開けて電話を取り出して電源を入れて番号を呼び出してコールする。

窓の外を見ると、30m先に地面が見える。

心臓が3分の1に縮み、アドレナリンが脳を駆け巡る。
鼓動は倍になり、感覚はかつてないほどに鋭敏になる。
スローモーション。
電話がつながらない。
目を閉じる。
無重力を感じる。

僕は叫ぼうとする。
自分の生きた証を空気に刻み付けようとする。

真っ暗な宇宙空間で僕は窒息する。