さくらの日

もう、とっくに日は過ぎてしまったけど、今日は「さくらの日」だったらしい。
そういえば、さくらはもう咲いていた。

花びらが舞う。
僕はその様子を目に焼き付ける。
僕は自転車をこぎながら目を閉じる。
花びらは瞼の奥でリズムを刻む。

飼っていた犬が、野うさぎを噛み殺したとき、僕たちは野うさぎの体に手を触れて消えていく体温を感じた。

飛行機が離陸したとき、僕の感覚は飛行機についていけなかった。その速度を僕はリアルに想像できなかった。
飛行機が着陸したとき、僕は自分が変わってしまうんじゃないかって不安になった。
あなたは笑って、そんなことは当然だと言った。
着陸するたびに、私たちは違う時間、違う空間に降り立つのよ。

熱膨張が収縮に変わる。

僕はあの野うさぎをよく庭で見かけていた。
あなたは「違う」と言った。
僕は「そうだ」と言った。

エネルギーは常に形を変える。

その木の下で、僕はあなたの温もりを感じた。
その木が切り倒されたとき、僕らは不可侵の領域を失った。

花びらは地面からひらひらと舞い上がり、枝についた小さな花に戻ってゆく。

終わりがある事をあなたは知り、僕は否定し続けた。

素粒子が時間を超越する。
僕とあなたはまだつながっているのだろうか?

取調室にて

何となくテレビを見ていたら、WBCで日本が韓国に勝ったらしい。
僕は野球がそれほど好きではないのでWBCにも興味がなかったのだが、韓国戦に2敗した時のイチローの憤慨ぶりが格好良くて火がついていた。
韓国に勝った一報をニュースで見た時は思わず大きな声を出したほどだ。
それから忙しくてニュースを見ていないけど、日本代表はどうなったんだろう?
それとも、ニュースは僕の話題で持ち切りだろうか?
僕は今、取調室にいて担当の警察官と向かい合っている。
彼は僕をどう扱っていいのかわからないようすで、黙って僕を観察している。
僕も彼と話す積極的な必要性が見つからないので黙っている。
もちろん、こんなところに連れてこられて気分が悪かったので声を出すのも面倒だ。
「積極的な必要性」という言葉について考えてみる。徐々に僕はムカついてくる。
目の前にいる男を殴り倒す事を想像する。警察官は大概が横柄な奴らだ。慇懃無礼で横柄だ。
この男も例外ではない。優しい口調で話しているつもりだろうが、人を見下した目をしている。
何故、僕がこんなところに連れてこられたのか思い出そうとする。
僕は混乱している。「僕の平穏な一日」が壊れたからだ。
彼女は僕に自分自身を食べてほしいと言った。
彼女は僕の事を好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでしようがないから、あなたに食べられたい、といった。
自分の存在をあなたの中に置きたい、と。
その言葉はいまいち説得力に欠けていたけれど、彼女は真剣だった。
僕も彼女の事を好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでしようがなかったので、彼女を食べることにした。
僕はスプーンで彼女の肉を削ぎ取って食べた。眼球は飲み込んで、骨と内蔵と血をミキサーにかけてスープにして食べた。
食べ終わる頃には、一日が過ぎていた。テレビでは日本代表が韓国に勝っていた。
そして、警官がやってきた。
僕は気づかなかったけど、血の生臭い匂いが部屋から漏れていたらしい。
警察官がタバコを取り出して吸っても構わないか、と言う。
僕は一本くれませんか?と手を差し出す。
警官からタバコをもらい、火をつけてもらう。
煙を一気に吸い込んで、肺にためる。
僕は君の事を好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでしようがなかったけど、一つになれるなんて幻想だ。
僕は一人になってしまった。
煙を吐き出して、僕は自分に鍵をかける。
感覚は遠のいていき、僕は深い眠りにつく。

CLAP YOUR HANDS SAY YEAH,KASHMIR

panicattack2006-03-14

最近、何にも集中できなくなってきている。
バイクにひき逃げされたからか?
気が滅入っている訳じゃないけど、何かが頭に巣食っている。
後ろから心臓や肺に指を突っ込まれて引きずり倒そうとされているみたいに背中に嫌な悪寒が走る。
現実逃避傾向が強くなっている。
何をやっているんだ?もうお前は25歳だよ。
まあ、いいや。眼鏡がひき逃げで壊れた(転倒したのはバイクにぶつかられた訳だが、頭から落ちたのは僕の鈍臭さが所以。眼鏡は顔と地面に挟まれて砕け散った)から新しい眼鏡を買ったのさ。
最近は1時間も待てば眼鏡は出来るから待ち時間にCDを買ったわけさ。
"CLAP YOUR HANDS SAY YEAH"
今の俺に必要なタイトル。
小粋で素敵で少し楽しくなる楽曲はちょっとだけ明日も生きてみようって気にさせてくれる。
あと"KASHMIR"ってデンマークのバンドの"NO BARANCE PLACE"ってのを買ってみた。
なんかもう、レディオヘッドみたいなバンドは聴きたくない時期なんだけど(明日には変わるかもしれないけど)、これは悪くなかった。3曲目が格好良くて、デビッド・ボウイも歌っててウットリ。デビッド・ボウイって年とって声が太くなったほうの声がセクシーで素敵です。
まあ、2枚ともレディオヘッドに近いかも。
この2枚でもう少しは生きて行けそうな気がした。
CDを買った時って、家に帰って聴くまでのドキドキ感ってたまらないよねえ。
久々にそんな気分になった。

Weightless

時速800キロ。
テロリストに爆破された飛行機は螺旋状に落ちていく。

窓から見える世界はくるくると回転する。日の出の赤い空が見え隠れする。
一瞬、シュールな光景に我を忘れる。夢みたいだ。
夢だったら良いのに。
目を閉じる。脂汗をかきながらベッドで目を覚ますことを想像する。
目を開ける。世界はまだ回転している。
無重力を感じる。

機内の電源が落ちる。
薄暗い中で、僕は宇宙を想像する。
そこは、だだっ広くて、冷たくて、音がなくて息が出来ない。
僕は、喉が裂けるくらいに大声で叫ぶ。
僕の声は騒音と乗客の叫び声にかき消される。
パニック。
いけない。別れた女の顔を思い浮かべた。いや、母親かな?
地面まで、残り3分。

確かに僕にはいるべき場所があった。
僕には選択できるあらゆる可能性があった。
僕は確かにそこにいた。君みたいに光っていた。
無重力を感じる。
僕はずっと一人だった。君はどこにいるんだろう?

目を開けて電話を取り出して電源を入れて番号を呼び出してコールする。

窓の外を見ると、30m先に地面が見える。

心臓が3分の1に縮み、アドレナリンが脳を駆け巡る。
鼓動は倍になり、感覚はかつてないほどに鋭敏になる。
スローモーション。
電話がつながらない。
目を閉じる。
無重力を感じる。

僕は叫ぼうとする。
自分の生きた証を空気に刻み付けようとする。

真っ暗な宇宙空間で僕は窒息する。